もう随分、前のことになる。 以前の職場にある日、新しい事務員が入職してきた。 その歓迎会の日、彼女の案内で、彼女がよく使っているバーに二次会か三次会だったか、同僚共々、お邪魔した。 ワイワイとやっているうちにマスターからお客さんのリクエストでカクテルを作りますよ、という話になり、それぞれにイメージだけ伝えてそれに合ったカクテルを出してもらったのだが、筆者の番になってどうするかとなったときにふと思いついて「Jazzy でBluesyなヤツを」とお願いしてみた。 ちょうど、音楽的にスタンダードなジャズやブルースといったルーツの部分に目が行き始めた時期でもあったのだ。 その時出てきたカクテルは、ウイスキーのタンブラーサイズのグラスで見た目もウイスキーっぽいのだが、味はというとウイスキーというには不思議なまろやかさと穏やかな甘さ、微かなハーブとスパイシーな香り、何だか分からないけれど実に「JazzyでBluesyな感じ」であった。 が、おいしくておかわりもしたくせに、一体全体、どういうレシピで作られたのかは分からないままだった。
そんなお酒との出逢いをもたらしてくれた呑兵衛の彼女、その後、数年して不意に退職していった。 年齢も近かったことやギターを趣味にやっていた共通点もあって結構、仲良くしていたのだが(例の「スガシカオを紹介してくれた」のも彼女だ)、やはり退職してからは縁も遠くなり、その後は年賀状のやり取りがか細く続くのみとなった。 豪快な感じのキャラで売っていた一方で結構、繊細で無理をしてしまうタイプの彼女、その後に就いた仕事でも無理をし過ぎて身体を壊した、…
もう随分、前のことになる。 以前の職場にある日、新しい事務員が入職してきた。 その歓迎会の日、彼女の案内で、彼女がよく使っているバーに二次会か三次会だったか、同僚共々、お邪魔した。 ワイワイとやっているうちにマスターからお客さんのリクエストでカクテルを作りますよ、という話になり、それぞれにイメージだけ伝えてそれに合ったカクテルを出してもらったのだが、筆者の番になってどうするかとなったときにふと思いついて「Jazzy でBluesyなヤツを」とお願いしてみた。 ちょうど、音楽的にスタンダードなジャズやブルースといったルーツの部分に目が行き始めた時期でもあったのだ。 その時出てきたカクテルは、ウイスキーのタンブラーサイズのグラスで見た目もウイスキーっぽいのだが、味はというとウイスキーというには不思議なまろやかさと穏やかな甘さ、微かなハーブとスパイシーな香り、何だか分からないけれど実に「JazzyでBluesyな感じ」であった。 が、おいしくておかわりもしたくせに、一体全体、どういうレシピで作られたのかは分からないままだった。
そんなお酒との出逢いをもたらしてくれた呑兵衛の彼女、その後、数年して不意に退職していった。 年齢も近かったことやギターを趣味にやっていた共通点もあって結構、仲良くしていたのだが(例の「スガシカオを紹介してくれた」のも彼女だ)、やはり退職してからは縁も遠くなり、その後は年賀状のやり取りがか細く続くのみとなった。 豪快な感じのキャラで売っていた一方で結構、繊細で無理をしてしまうタイプの彼女、その後に就いた仕事でも無理をし過ぎて身体を壊した、というようなことを風の便りに聞いた。 そういうこともあって、元々が彼女の伝手で訪れた件のバーは、場所が筆者からするとアクセス容易ではなかったこともあり、レシピ云々どころかそもそも訪問することもなくなってしまい、憧れのカクテルもほとんど幻のカクテル状態。 別の店でお願いしても、どうにもこれだというものが出てこない。
ところがその後、何がきっかけだったか、ふとした折に「ドランブイ(Drambuie)」というお酒の、確か「ホットドラム」というカクテルだったかをHumphrey Bogartが愛飲していたというような小ネタを耳にして、もしかして、と思ってお酒屋さんで見つけたドランブイを買ってみた。 まさに天啓。 あの味ではないか! 作り方は別に難しくもなんともなくて、ドランブイを水で割ってレモンを少々、その後ステア。なんだそれだけか、といえばそうなのだけれど、そもそもベースになるリキュールを探し当てることが大変だったわけだ。 なるほど、JazzyでBluesyね。トレンチコートでハードボイルドですわ。 まぁ、蜂蜜とかハーブ、スパイスがミックスされたものなので人による好き嫌いはあるのだろうけれど、筆者的には実に味わい深く美味。アルコール度数としては元々のリキュールはそれなりなのだが(そりゃそうだ、ウイスキーなんだから)、飲みやすいのでついついグイッと行ってしまう。 以後、我が家にドランブイが常備されるようになったのは言うまでもない。
その後、彼女もどうやら結婚したらしく地元を離れて遠い場所に引っ越していった。 どうやらそれなりに穏やかな生活を送っているようであった。 ただ、ここ数年、年賀状の文面の中に「去年は○回手術をした」だの「車椅子が云々」だのというあまり穏当でない言葉が目につくようになり、そのくせそれ以上は詳しい状況はよく分からないという少々モヤモヤした日々に。 そして、あるとき、寒中見舞いが彼女本人の名前ではなく家族の名前で届いた。 読むとこれまた詳しいことは書かれていなかったが、彼女が闘病の末に亡くなった、と。
結局、退職後は一度も直接会うことはなく、ドランブイを「発見」したことも伝えられなかった。 「君の瞳に乾杯」…なんて冗談を一度くらいはやってみたかったんだけどな。 彼女だったらノリノリで相手をしてくれたに違いない。 哀しい話である。